ギャラリストのよしなごと

繋ぐ

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高校の3年間、私はクラスのまとめ役を任されていた。

高校生活で何が楽しかったかといえば、それはもうスポーツ大会や合唱大会といった、クラス対抗で競い合う学校のイベントだった。

クラス一丸となって優勝を勝ち取ることが何よりの悲願で、そういう時こそまとめ役の私の度量が試されたものだ。

 

ある日、スポーツ大会のためにクラスで揃いのTシャツを作るため皆から集めた資金をごっそり丸ごと盗まれた。

クラスの誰かが犯人であることはまず間違いない、と誰もが思ったはずだ。

“泥棒が潜んでいるクラスなんて最低!”と泣き喚く女の子もいたし、“お金を盗んだやつは正直に言えよ!”と力づくでも犯人を探し出そうとする男の子もいた。

とにかくクラスの生徒たち皆が犯人探しに躍起になり、そして疑心暗鬼になっていった。

そんな時、クラス担任に私は呼ばれた。

私たちの担任の藤田先生はヤクザのような荒い言葉使いと鋭く暗い目つきで生徒たちを威圧する、とびきり怖い先生だった。

お金を盗まれた責任を私が問われるのはもっともだとは思っていたが、さすがに彼から雷を落とされるのは震えるほどに恐ろしかった。

“なぁ、ケイコ、日頃の隙だらけのお前の性格がこの事件を招いたのはわかるよな。全てお前の責任だ、と責めたいところだけれど、今回だけは多めに見てやる。その代わり、壊れてしまったクラスの団結をもう一度繋ぎ直すのはお前の役目だ。

皆の金を盗んだやつが今一番苦しんでいると思わないか?だからもうあれこれと詮索はするな。“

彼はそう言って自分の財布を取り出し、クラス全員のTシャツ分のお金を私に差し出した。

“いいか、この金はお前が将来出世したら必ず返しに来い!”

あの時ほど私は感激したことはない。 “必ず返します!”私は泣きじゃくりながら先生にそう言った。

 

あれから何十年と経つ。

実は私、あの時のお金を彼にまだ返していないのだ。

ごめんなさい、藤田先生。どうか叱らないで!

 

今日紹介するのは寺山紀彦さんの作品だ。

彼の制作スタイルはいつもアートとデザインの間にある。

二つの違う茶碗が壊れ、そのかけらを互いに交換しながら金継ぎで繋ぎ合わせた様子を表現した茶碗のセットである。

壊れてしまった物、あるいは気持ちはもう元に戻らないのではなく、つなぎ合わせることにより、元よりもずっと強固に、またより魅力的で美しく生まれ変わるのだと彼はこの作品を通して私たちに伝えているのである。

 

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