ギャラリストのよしなごと

繋ぐ

高校の3年間、私はクラスのまとめ役を任されていた。 高校生活で何が楽しかったかといえば、それはもうスポーツ大会や合唱大会といった、クラス対抗で競い合う学校のイベントだった。 クラス一丸となって優勝を勝ち取ることが何よりの悲願で、そういう時こそ…

再起動

パソコンを日々酷使しているが、時にイライラするほど動きが悪くなる時がある。 そういう時は深呼吸を一つしてP Cをシャットダウンをし、再起動をすれば案外に速やかにパソコンは動いてくれるものである。 “P Cも人生も似たようなものだな”と電源の落ちた真…

老い

私の母は冬でも信じられないほど薄着で過ごす人だった。 真冬の冷え切った廊下を裸足で行ったり来たりするし、毎日腕まくりをして家事に勤しんでいたように思う。 父もまた冬山登山とかスキーが趣味で、やはり寒さにはめっぽう強い人だったから、今思い出し…

平凡とは

あれは確か私が中学2年生の時のことだったと思う。 クラスの中に利発で可愛いけれど、ちょっと皮肉っぽい表情を持った女の子がいた。 私は彼女の少し他を見下したような目つきがあまり好きではなかったけれど、だからと言ってその他に彼女を嫌う理由なんて…

幸せの赤い鳥

長引くロックダウンの暮らしは変化に乏しい。 毎日メリハリのない暮らしをしているうちに、私は自分の感情をまるで凪の海のように動かすのを止めてしまっている時がある。 そんな私が今ミケーレと共にちょっと興奮気味なのである。 私は家にいる時は大抵家の…

時間

“このボウルって我が家にもう40年もあるってこと、知ってた?” そう言ってパートナーはオレンジ色のプラチック製ボウルを私の方に突き出すようにした。 彼のその言葉を耳にした途端、母の顔が目の前にすっと現れる気がした。私の母もある時は食事の準備をし…

庭仕事

外から“ブーン、ブーン”と低く唸るような音が遠くから聞こえてきたら、私の気持ちはふわりと浮き立つ。 音の正体はと言えば、誰かがどこかで芝を刈っている機械音である。 これは私にとってはまさに夏がやってくるというサインそのものなのだ。 我が家の庭は…

夜の散歩

日本では東京のような大都会の場合は隣に住んでいる人の名前も顔も知らないってことはごく普通にある。でもそんな都会以外の街では、近所に住んでいる人たちの情報は互いに筒抜け状態なのである。 家族それぞれの名前どころか、夫婦の年収やら学校の成績まで…

不安なんて

私たちは何だってスムーズにそして簡単にできてしまう便利で快適な世界に生きていると思っていたけれど、今まさかの泥沼にハマってどうにも身動きができなくなっている。こんなパンデミックが起きてしまうとは一体誰が予想していただろう。 今は誰もが不安を…

弱さと強さ

映画を見ていると、主人公はいつだって不屈の精神を持っていて、叩かれても潰されても諦めることなく、相手に向かっていく。それを見ている私は彼らにすっかり感情移入しているものだから、画面の中で彼らが顔を顰めて痛がる時には私も自分のことのように身…

思い出というのは不思議なもので、あちこちの引き出しを開けてガサガサと探しているときには全く何も出てこないのに、人と話をしている時とか、仕事に夢中になっているときに、ぽろりと転がり出てくるものである。 たった一年だけ私はひどくすさんだ中学校に…

わがまま

末っ子の特権で、私は両親からも兄姉からもなんだかんだと言いつつ可愛がられ、だからこそ今まで穏やかな波に上手に乗っかるようにして生きてきたと思う。 そういう私でも一応家族の優しさや大事にされている感覚を自覚していたので、わがままを言って家族を…

手腕

私の母は実に肝の座った豪胆な人だった。 恰幅が良くて社交的だった父と比べると、母は物静かで内向的に見えたのだけれど、いざという時には父よりもずっとどんと構えていて、物おじせず先頭に立って私たちを守るようなところがあった。 それは元々の彼女の…

忘れ物

つい最近面白い本を読んだ。 散歩がてら歩いている道すがら誰かが落としていった、あるいは忘れていった物について連想を重ねて話を紡いでいくエッセイだった。 私は子供の頃から二つ以上の荷物を持つと、何かを忘れてしまうという致命的な欠点がある。 そん…

手相

今までの人生で一度だけ手相を見てもらったことがある。 あれは高校3年を修了した春のこと、私たち仲良し七人の女の子たちはそれぞれが各々違った大学への進学が決まり、最後の思い出づくりのためと称して一緒に旅に出た。 明日はもう帰る日という晩、私たち…

手紙

私が両親の元を離れたのは大学生になってからだが、母は最低でも三日に一度は電話をよこした。 末っ子の私が兄妹の中で一番頼りなかった事もあって、母は私のことが心配だったのだろう。でも同時に3人の子供たちが全て家から出払ってしまい、夜になると静ま…

銭湯

ここに住み始めたばかりの頃、ドイツと日本との違いが新鮮で、物珍しくてとにかく日々、楽しくして仕方がなかった。 まるで小さな子供が新しいことを日々学んでいくように、私はドイツという国を、そしてその文化や習慣を貧欲なほどに吸収してきたように思う…

思い出の色

夏時間になっていいなぁと思うことは夕方に散歩できることである。 日暮れ前の日差しは1日の中で一番美しいから目に見える全てのものがハッとするほど輝いている。さらにひんやりと冷たい空気は昼間の埃やざわめきを綺麗に洗い流してくれているように感じる…

おすすめの本

ちょっと前にパリで活躍している日本人の記事を読んだ。 パーフェクトなインテリアがゴージャスな家で、美しく着飾り生活感なんてまるでないその人は、P C画面上にて満面の笑顔を私に向けている。 “こんなにも眩しい暮らしをしている人がいるんだ!”と興味半…

燃え尽き症候群

あの頃の私は燃え尽き症候群になっていてもおかしくなかったのだ、きっと。 私が中学の頃、姉が俊足の持ち主だったこともあって、私は半ば強制的に陸上部に入部させられた。姉が走るのが早ければ、妹もそうだろう、と考えた陸上部の先生たちは全く浅はかだと…

ネガティブな思い出

毎日のようにギャラリーパートナーから“もっとポジティブなことを書いたら?”とここで書く文章についてやんわりと方向転換を仕向けられている。 もちろん私もここまでの短くない人生の中で、嬉しかったことや楽しかったことはたくさんある。だが残念なことに…

物欲

大学生の時、友人に誘われて街のカトリック教会が主催している“聖書を読む会”のサークルに入ったことがある。 週に一度開かれるこの会は、カトリック信者だけでなくさまざまな人が集まって神父の解説を聞きながら聖書を少しずつ読み進めていこうという読書サ…

眠れない夜

昨日は夜明け近くまで眠れなかった。 私の場合、眠れない日の夜にはどういうわけだか過去に犯した失敗の数々が次々に私の頭の中で自然発生的に渦巻いてしまうのだ。 過去の失敗なんて今更考えてもどうしようもないなんてことは重々分かっていても、一旦頭の…

”母さん!”

探し物をしていたら、意外な場所から写真が出てきた。 その瞬間にもう何を探していたかなんてすっかり忘れてその数枚の写真に見入ってしまった。 写っているたのは私と当時の教え子たちだった。 目を瞑るとあの塾の教室の匂いや子供たちのざわめきが蘇ってく…

山あり谷あり

母は私が就職をするときにこんな話をした。 “どんな人もそれぞれに山あり谷ありの人生を送るのだけれど、その山や谷がどんなに高いかあるいは深いかはそれぞれがそれにどれだけ堪えられるかによって決まる。つまり、あなたにはあなたが堪えられる分だけの山…

一般仕様の大衆車

自分の人生って思い通りに進んではくれない、とわかったのはいつの頃だったのだろうか。 髪を長くしたいのにどうしても母が許してくれなかった6歳の頃にはもうそんなこと、薄々気付いていたのだろうか。それとも高校生の時に思い切って父にアメリカに留学を…

復活、今日はイースターだし。。。

信じられないほど長くお休みをしたような気がする。 最後にここを開いたのがいつだったか思い出せないほどである。 あれから一体何をしていたのかと問われれば、実は他の場所で書いていたのである。 つまり浮気をしていたということか?と咎められそうだけれ…

馬鹿者

”忙しい!忙しい!” こんなこと口に出したからってどうしようもないことはわかっている。 でも。。。 どう言うわけだか仕事が溜まり始めるとそこに拍車をかけるかのように次々に様々なことがその仕事の上にのしかかってきて私を圧迫する。 ギャラリーは8月に…

神のみぞ知る

”本当に私が関わるべきことじゃないのだ”、と思うけれど、やっぱり気にしている私がいる。 年齢の近い友人の一人が最近音沙汰ないと思っていたら、いつの間にか若い燕と暮らしていることを知った。 ”若い”と言っても5、6歳の年下ならまだしも、相手は20代だ…

アップルコンポート

我が家のリンゴは早生で、既に収穫の時期を迎えている。 ”家にリンゴの木があるなんていいじゃない、ドイツって感じがするわぁ!”と言ったのは姉だ。 確かに私だってその昔日本にいた頃はそう思っていたから姉を責める気はない。 でも。。。 「毎朝起きると…