ギャラリストのよしなごと

物欲に支配されず、瑣末な違いに惑わされず。。。

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人と比較すると自ずといろんな差や違いが目に留まる。

 

”あの人の方が収入が高い”、”あの人の方がすらりとして美人”、”あの人の方が友人が多く、人に好かれている”。。。

高い方を見上げればいくらだってすごい人たちはいる。

低い方を見ればこれまたずらりと並んでいる。

上を見ては嫉妬を覚え、下を向いては優越感に浸る。

 

冷静な判断ができる時には、それらの感情がいかにバカらしく、何の為にもならないとわかっていても、頭に血が上っている時には、簡単に妬みが燃え上がったり、大したこともない優越感で人を見下してしまう。

 

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子供の頃に母に連れられてお寺のお坊さんから話を聴いたことがある。

その時に一人のおばあさんが質問をした。

 

「私、今になってもいろんな物が欲しくてしかなくなったり、人を見て嫉む気持ちが沸き起こるのです。どうすればいいのでしょう?」

 

確かこんな質問だったと思う。

お坊さんの答えの方はすっかり忘れてしまったのだが、”こんなにおばあさんになっても、まだいろんな物を買いたかったり、人を蹴落としたくなったりするんだ。。。”と私は驚いたのをよく覚えている。

その頃私は、何でもつつがなくできてしまう優等生の姉を妬ましく思っていた。

あんなにおばあさんでも私と同じようなことを日々悩んでいるならば、姉のことを妬む私も案外普通なのかもしれない、とホッとした。

 

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私はギャラリーに務める前には、写真のプロダクション会社で働いていた。

広告写真を作る会社で、真夏に家族団欒のクリスマスの写真を、真冬にBBQパーティの写真を撮影したりする。

そこではいつも幸せに満ちた、楽しさいっぱいの家族や恋人、友人たちの擬似ドラマを写真に映し出していた。

 

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見ず知らずのモデルたちが恋人同士、あるいは母親、父親になり、数名の子役が兄弟姉妹を演じる。

 

もちろん撮影はプロのモデルを使うことがほとんどで、キャスティングをする場合は仕事の欲しいプロモデルがずらりと並び、現場にはピリピリしたムードが漂う。

みんなそれぞれ仕事を取りたい。

居並ぶモデルたちは皆一様に美しく、スタイルも素晴らしい。

輝くような笑顔も板についている。

甲乙付け難いモデルが揃ったそのオーディションの場には、目には見えないが重々しい空気が流れ、嫉妬という名の稲妻があちこちに怖いほどの青白い光を放って、飛び交っている。

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時には素人モデルを使うこともある。

オーディションをするのはプロと同じなのだが、募集をすると結構いろんな人たちが、”我こそ!”と集まってくるのは、面白い。

 

それぞれに応募した理由を聞くと非常に興味深い。

ある男性は子供の頃子役俳優として活躍した人らしく、もう一度スポットライトを浴びたい、と願っていた。

”若い恋人の男性役”を希望していたが、髪は薄く、ビール腹を抱えている。

 

遠いところからわざわざやってきた女性は、今でもモデルとして細々とだが仕事をしていると言った。

”もっと仕事を増やし、ゆくゆくは世界的に。。。”と、仕事の内容をまとめたファイルを私に手渡した。

私は中を開いて一瞬ギョッとし、即座にパタンとファイルを閉じた。

彼女は熟年ヌードモデルをやっていたのだ。

その肉肉しい肌色の塊を、私は正直言って正視できなかった。

 

こうした元プロのモデルたちは興味本位で集まった素人の人たちを明らかに侮蔑していた。

”素人にモデルの何たるかなど、わかるはずがない”との黒々としたタールが流れ出ているような驕りを強く感じてしまった。

 

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お坊さんに質問を投げかけていたあの高齢の女性のように、私たちは幾つになっても穏やかな境地にたどり着くことができないのだろうか。

物欲に支配されず、瑣末な違いに惑わされず。。。

 

そんなことを考えながら家にたどり着いたら、最新の洋服のカタログが届いていた。

中を開くなり、”このワンピースにしようか、いやこのセーターは素敵だ”と時間を忘れて見入った。

 

仕事帰りの道々、人間のあり方について考えてみたものの、所詮私は欲のかたまり、人間の高みには到底登れそうもない。。。

 

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