ギャラリストのよしなごと

見合い話

古き良きミュンヘン

 

すっかりと好々爺になった叔父から突然メールが来た。

”何事?”と思って、すぐに読んでみる。

 

両親をすでに亡くした私には、実はもう兄姉とこの叔父しか血縁がいない。

いや正確に言えば、叔父には一人娘がいるので、いとこがいるには違いないが、一度も会ったことがない。

私の頭の中の親戚はこの叔父だけである。

 

ミュンヘン

 

叔父の用件は何と”見合いをしないか”、ということだった。

彼は私がまだ結婚をしないでドイツくんだりでフラフラしていると思っているらしい。

叔父が見つけてきた見合い相手は、結婚相談所にその履歴を持っていけばドドっと独身中年女性が群がりそうな、そんなキラキラ輝くような経歴を持った人だった。

女性の側から言えば、”妻と死別、子なし”とくれば、それだけでも条件的にはいいのだろうけれど、さらに高収入となれば、結婚願望の強い人ならば垂涎ものの人材。。。ということになりそうだがどうなのだろう。

 

ジギタリス

 

この叔父、若い頃はなかなかのハンサムでキザな物腰だったせいか、女性たちにかなりモテモテで、いつも何かしら女性のことで問題を起こしていた。

父とはかなり年が離れていたので、彼の女性問題がよじれて絡まってどうしようもなくなったら、彼は親に泣きつくような感じで兄である父と義姉の母に縋り付いて来た。

父にとってはまさに不肖の弟、だからこそ捨ててもおかれず、いつも最後には弟の尻拭いをしていたようである。

”頼りないよねぇ”と私は子供ながらに叔父のことをそう思っていたし、ちょっぴりヤクザっぽい彼の雰囲気は父とは似ても似つかなかったものだから、”本当にこの二人、兄弟なのだろうか”と疑いの目を彼らに向けていたこともある。

 

路上

 

叔父には彼の最後の愛人だった水商売の女性との間に娘が一人いる。

父と母は叔父が幾つになっても女性問題から足を洗えないでいることにほとほと愛想を尽かして、長い間彼と断絶をしていた時期がある。

もちろん父も母も亡くなるまで彼の娘と会おうともしなかったし、私たち、子供たちもその子に会う理由がなかった。

 

今でも兄は叔父のことを毛嫌いしているようだけれど、すっかりおじいさんになって色も欲も無くなった彼を嫌う理由なんて今はどこにもない、と私は思っている。

そんな私の気持ちが通じるのか、彼はたまに慣れないメールを私に送りつけてきたりするのだ。

 

イタリアレストラン

 

彼のメールからすると、結婚もせず一人で暮らしている私のことをある友人に話したらしい。

叔父のことだから多少枝葉をつけて私のことを話しているに違いないが、その友人は手を打ってそれを喜んだ。

彼の近所に住む人の息子さんが再婚したがっている、”こりゃ、最高!”となったようだ。

叔父とその友人は、早速にこの見合い話をその男性に持っていき、そして何とその人はすっかりと乗り気になっているという。

 

私はすぐさま叔父に電話をかけた。

”困るよ、勝手なことしちゃ。。。”と非難がましく言う私に叔父は”どうして?”と解せないでいる。

どうやら私のことをかなり誤解している。

結婚できないからドイツへ逃げている、と彼は思っていたらしく、結婚相手さえ見つかれば私はホイホイと日本へ帰ってくるだろうと、考えていたようだ。

私が”自ら望んで結婚を選ばなかったのだ”といくら説明しても、彼は”そんなに突っ張るなよ!”だとか、”この際、やせ我慢なんてしなくていいから!”とまるで相手にしてくれない。

 

「叔父さんさぁ、私が結婚してうまくいくとでも思うの?」

 

そこでやっと彼は口をつぐんだ。

彼は子供の時の私の自由奔放さを知っている、父に一番よく似て頑固で自己中な性格を持ち合わせていることも重々承知している。

”残念だなぁ、残念だよ!”と彼は何度も同じ言葉を繰り返し、そして言った。

 

ピンクの花

 

「ケイコちゃん、君は偉いよ。

異国で一人で生き抜くことを選んだんだから。。。

俺、ケイコちゃんの爪の垢を少しでも煎じて飲むことができていれば、もっとマシな人生送れたのによぉ。」

 

”何言ってんのよ、おじさんったら!”と言って私たちは大笑いをした。

”叔父さん、元気でやってよね。”と言う私に彼はつと黙り込んだ。

 

しばらくして彼は遠慮がちに口の中でモゴモゴと話した。

「今度娘に会ってやってよ、俺に似合わずいい子に育ってるからさ。」

 

”もちろんだよ、叔父さん!

叔父さんがたった一人で苦労して育て上げたんだから、いい子に決まっているじゃない!”