ギャラリストのよしなごと

手相

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今までの人生で一度だけ手相を見てもらったことがある。

あれは高校3年を修了した春のこと、私たち仲良し七人の女の子たちはそれぞれが各々違った大学への進学が決まり、最後の思い出づくりのためと称して一緒に旅に出た。

 

明日はもう帰る日という晩、私たちはホテルの近くで“手相占い”の看板を見つけ、“これからの人生を占ってもらおうよ!”と誰からともなく言い出したのだった。

今までの我々の人生は両親の築いたレールの上を走るだけで安全でまっすぐに進むことができた。これからはレールを敷くのもその上を走るのも自分、何となく漠然とした不安はもちろんあったのだ、でも18歳の私たちにはそんな不安なんかよりもずっと大きくて眩しい光と希望が見えていたのだと思う。

だからあの時のみんなに占いなんて必要なかった、ただ面白半分だったのだ。

 

占ってくれたのは小さくて血色のいいおばさんだった。

多分彼女に娘がいたならばちょうど私たちの年頃だろう、つまり私たちの母の世代だったろう、と思う。

この彼女が何とも辛辣だったのだ。

今思うに、何の苦労をしたこともない少女たちが、これから人生に対しても恐ろしいほどに楽観的であることに、彼女は苦言を呈したかったのだろうと思う。

彼女が私に言った言葉を今でもとてもよく覚えている。

“あなたはいつだって本気を出さないままに生きて行くでしょう、それでも皆と同じような普通のレールの上を走ることができるから。

もしもあなたが髪を振り乱すようにしてがむしゃらに走るならば、きっとあなたの才能は開花すると思うけれどね。でもあなたは自分に対しても臆病だからダメでしょうよ。 “

 

占いなんて誰が信じるものか、と思うけれど、でもあの時のあのおばさんの言葉は正直言ってずっと私の心に突き刺さっている。

私はこれっ!という特別な才能を持っているわけではないけれど、それでもなけなしの力を振り絞れば、これから先10年のギャラリーを一歩一歩大きく育てることができるかもしれない。

 

今日は世界中に多くのファンを持つ楠本真理子さんのいくつかのブローチを紹介しよう。彼女の作品に一貫しているのは、繊細で美しいフォームと皆を一瞬にして虜にしてしまうその色使いにあるのではないだろうか。

しかしもう一点私は見逃せない点が彼女の作品の根底に流れていると感じている。

それが、強さである。強さとは彼女の強固なテクニックであり、彼女の隅々までに行き渡る揺るぎないこだわりであり、そして彼女のまっすぐに将来を見据えた堅牢な意思にあるのではないだろうか。

 

あの母親のような占いのおばさんの言葉を信じて、ギャラリーの将来のために果敢に挑んでいこうじゃないか、と今頃になって思っている自分がいる。

 

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